「すべてとともにある」

『The Animal Communicator』(南アフリカ、2012年、52分、英語)というドキュメンタリー映画を見ました。野生のバブーンの群れのなかにゆったりと歩み入り、すっと群れにとけ込んでしまったAnna Breytenbachさんの姿が心に残りました。岩に横たわったAnnaさんを数匹のバブーンがとりまいて、彼女の髪を両手でかきわけたり、顔に鼻先を近づけたり、おなかに両手をのせてよりかかったりしていました。とても幸せそうになすがままにされていたAnnaさんの様子は、以前テレビで見た畑正憲さんと重なりました。あれは確かモンゴルだったと思うのだけれど、畑さんはおおかみ舎の中に丸腰で入っていって、おおかみの美しさをたたえまくりながら、おおかみに押し倒されたような状態になって顔をべろべろなめられるがままになっていたのでした。畑さんもあのとき、呆けたように幸せそうな顔をしていたっけ。

Annaさんはボスのバブーンにうながされて、一緒に地面に穴を掘ってもいました。バブーンの手と、Annaさんの手が、一緒に地面の小さな穴の中に差し込まれるのを見て、じーんとしました。

すばらしかったけど、すばらしすぎて、映画を見た夜、わたしはまた自信をなくしました。まさにわたしの夢のビジョンを現実に生きている人がいるという、福音的な映像だったのに、それを見たわたしは、これはよほどのことがないと至れない境地だ、自分にはとうてい無理だ、と思ったみたいでした。そして今自分がしているささやかな試みが、あまりにささやかすぎて、なんの意味もない、と恥ずかしくなってしまいました。Annaさんのすばらしいありように圧倒されて、何事も最初は小さな一歩から少しずつなのだ、ということをすっかり忘れてしまった・・・。「あれは一部の才能のある人だけができること」という既成概念に、またしても、ぼはっととらわれてしまったのでした。

一晩寝て起きて、木々と空を眺めて座っていたとき、思い出したことがありました。このあいだの日曜にあった東京都知事選挙は、深く尊敬し信頼している候補者の方が出ていて、その人を一生懸命応援していたために、ほんとうにさまざまなことがあって、みぞおちの中がぐちゃぐちゃにかきまぜられるような日々をくぐったのですが、選挙の結果を見て、改めて自分の中から出てきた想いは「もっと話を聞きたい人がたくさんいる」というものでした。ほかの候補者の人に票を投じた人、投票に行かなかった人など、それぞれの人にとって、この世界がどんなふうな場所なのか、知りたい、と思いました。

それとちょうど同じように、もっと話を聞きたい存在たちがいる、と改めて思い出したのでした。鳥たち、草たち、雪、風、木々・・・。すべてに声が、ある。

 

このはっきりとした望みを思い出せたら、「できる/できない」ということをめぐる問いや不安から、離れることができました。


そして、そうした声を聞くには、頭の言語脳というか、社会脳というか、そういうものをシャットダウンする必要があることに思い至りました。

楠の木「青馬」と偶然話せるようになったときの自分を思い出しました。青馬に会うと、いつも、まず全身に独特の”流れ”のようなものが通ったのでした。全身が整っていくような流れ。その体感の中から、対話をしていたのでした。その体感のほうが、いわゆる”思考”よりも勝っていた。そしてわたしの側に、受け取る意図が、あったこと・・・。

そう、まわりの皆にスピリットがあり声がある。それを思い出したら、すべてに囲まれて、大いなる安心感がやってきました。

足下には床があるけれど、その下の地面の中には木々や草たちの根っこがネットワークのように張り巡らされ、虫たち、動物たちがそここを行き交っている。頭上には、天井の向こうに空があって、そこにはとんびやからすや小鳥や虫たちが飛び、雲が流れている。おしりを支えてくれてるこの椅子も、ある一本の木からやってきたもの。手にしている鉛筆にも、ノートの紙にも木々の精が宿っている。すべてに囲まれて、すべてと一緒にここにいる事実を思い出したとき、不安は消えていました。

ほかの存在は、いつでも「ともにいる」ということに開いているように思います。おそらくいつもそのような、開いた意識にある。ただわたしが閉じているだけだから、わたしも「ともにいる」ということに意識を開けば、いつでもこの大いなる平安にアクセスできるんだな・・・。

みんなと「ともにいる」とき、体もすっかり楽になっていきました。つかのまだったけれど、魔法のようでした。

Annaさん、畑さんも、「ともにいる」という意識に開くことを練習してきた人たちなのかもしれない、と思いました。

わたしもとりあえず、そこを練習していってみたらどうだろか? そんなふうに思いはじめることができて、自信をなくしてしょげていたところから意外と早くリカバーできたのでした。助けてくれた、木々やみんなのおかげです・・・。

 

Annaさんのすばらしいドキュメント、『The Animal Communicator』のトレーラーは、ここから見られます。